甘い香り

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 頭を踏みつけられたってことだ。しかも事故マニアには前にも遭遇した時、この愛車を病院送りにさせられたらしい。恨みが募っている、ということだな。  だが、俺は絶対に、何としてでも店に行くんだ!こんなところで立ち止まっている場合じゃねぇ。  俺は必死に店長をなだめた。店長の理想の“可愛い弟”を演じて、何度も「姉さん」と呼んで、30分くらいかけて鎮火。  あぁー、疲れた。この道は事故でもう通れねぇから別の細い道を通って、やっと店に到着。  チョコレートの専門店、その名も「チョコレートパニック!」。中高生達には「チョコパ」って略されて呼ばれてるぜ。  オープン記念イベントはまだやっていて、店の出入り口では無料でホットチョコレートが来客に振る舞われていた。  これがあってよかった。飲めば体が温かくなり、甘く幸せなチョコの味と香りが心を和ませる。店員の笑顔が引きつるほどイライラしてギラついていた、店長の目つきが一口でトロン。  大層気に入ったらしく、俺の分も飲んでもらって機嫌を直す。ナイス、ウエルカムホットチョコレート。 「若い女子ばっか……。あ、見て見ててんちょ、姉さん!カップケーキ、フォンダンショコラ、ブラウニーとか、色んな焼き菓子のセットとかもあるぜ?これなら小さい子供でも作れそうだな」 「ちょっと、何気にけなしてるでしょ。無自覚かっ。でも、そうね…………そういうのもいいんでしょうけど。あたし、もっと無難なチョコレートを食べさせてあげたい」
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