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「お前、ああいう本も読むんだな」
次に借りる本を選んでいる時、生澤に声をかけられた。
「マノン・レスコーのこと? あんただって読んだじゃない、恋愛物読むなんて意外ね」
「いや、それは……」
生澤がくちごもるのは珍しい。その視線はあちこち泳いでいたけれど私に辿り着くことはない。その挙動を内心で面白く感じながら、私は書棚に意識を戻す。マノン・レスコーが気に入ったから、他の本も開拓したい。太宰治はしばらく後にしよう。気持ちはやはり人間失格だけれども。
「俺は、あの男みたいになりたくない」 落ち着きを取り戻した生澤がマノン・レスコーの感想を語った。
「ひとを狂わせる、あんな女なんて捨ててしまえばいいのに」
「それがマノン・レスコーの魅力だと思うけど。簡単に捨てられる恋愛なら面白くないでしょ」
「どうだか。俺にはよくわからん」
坊主頭がうなだれて、いつぞやのコスモスのように今度は本が植え付けられる。様々なタイトルが並ぶ坊主頭。ああ、それは好きかも。お花畑よりずっといい。
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