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女の部屋に入るのだから室内を見渡したり緊張したりするのかと思ったが、生澤は座りもせず私を見つめていた。図書館で会う時のような余裕はなく、怒りをむきだしにして。
「そこまでして笹野エレナたちと繋がっていたいのかよ」
「別に。でもいままで何回も肉を食べてきたから、いまさら戻れない」
「くだらねえ。お前の人生はかわいそうだな」
「そうだよ、くだらないの。十万の価値しかない女だから」
生澤の瞳がより鋭くなった。ジャージのポケットにつっこんだ手を握りしめたらしく、腕の筋肉がこわばった。私にとってはその挙動ひとつひとつが楽しくてたまらない。いらだつ姿を見ているだけで、幸せな気分になれる。これのどこがかわいそうな人生なのだろう。
生澤は私に歩み寄ると、ポケットから茶封筒を取り出した。握りしめた指の跡が残ってくしゃりと折れたそれを、ベッドに腰かけている私へ投げつける。
「一万だ」
茶封筒を重たく感じたのは、それが予想外の行動だったからだ。中身を確認すると折れてはいるけど福沢諭吉がひとり。
「同情のつもり?」
「いやがらせ女に、誰が同情するか」
その言葉が鼓膜をかすめたと同時に、視界がぐらりと揺れた。見慣れている天井と、慣れないほど近くにいる生澤。天井に坊主頭って、新しい組み合わせだ。
「十万円のことを俺に話したのは、いやがらせだろ?」
「どうしてそう思ったの?」
「中学の時と同じ、いやがらせをする時のお前だったから」
「なにそれ。そんなに私わかりやすい?」
「俺にいやがらせをする時のお前、エロい顔してる」
「うわぁ、そういう目で見てたの、サイテー」
からかっても響かない。生澤の指にこめられた力は緩むことなく、私の肩は壊れてしまいそうなほど痛い。
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