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「生澤のくせに、偉そうなこと言って」 本を取ると同時に言い返してやった。
「お前、昔は大人しかったのに、どうして変わったんだろうな。すっかりひねくれてる」
「そりゃどうも。ああ、中学生からじゃない?」
「かもしれないな。お前の姿も変わったし、お前が選ぶ友達も変わった」
私が派手な格好をするようになり、同じ格好をした友達とつるんでいると指摘したいのだろう。年齢は変わらないのにお説教のつもりか。生澤をにらみつけたけどがっしりした体格には響かない。驚いてもいないくせにまんまるの瞳をして言う。
「無理してまで友達と同じにする必要ないだろ。似合わない格好をする必要あるか?」
「野球部のしきたりに従って坊主にしてるあんたに言われたくない」
「俺は好んで坊主にしてる。洗うのが楽だから。お前は?」
洗うのが楽ってなにそれ。きっと生澤が好むのは大人しい上品な女性だろう、もしくは坊主女子。どちらにせよギャルのかけらもない。
からかってやろうかと思ったがこの男は反応が薄い。塩の塊みたいな男だ。塩化ナトリウムを砂糖に変える魔法の言葉は残念ながら浮かんでこないので、会話から逃げることにした。
背を向けても生澤は追ってこない。そもそも借りたい本はこの棚にない。生澤が次に借りるのはきっと宮沢賢治、その棚は遠くの方にある。
生澤は変わった男だ。私に話しかけていることは奇跡だろう。だって私は、生澤にいやがらせをしていた女だから。中学一年生の、わずかな時期ではあったけれど。
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