1 禁断の水

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1 禁断の水

出勤する朝。必ず乗る列車。 もう百年たつらしい。この円環路線が開業して。 子供の頃は、乗りたくて仕方なく。 でもどこへ行きたいワケでもなく。 目的なし、それで良かった。 あの頃と比べれば、街も駅舎も車体も、そして人々の様子も、すっかり変わっているのだろう。 でも子供の頃の記憶は、比較できるほど正確じゃない。 列車は多分、この先、百年でも二百年でも走り続けるのだろう。 それと比べれば自分の一生はまったく短い。 それなのに、このまま一生、これに乗り続けるのは正直いって嫌だ。 でもいつもの駅に来て、列車を待つ人の列に並ぶ。 自分はいつも水を買う。 それを買ってから改札を通るのが習慣になっている。 パニック発作なら向精神薬。喘息ならステロイド。 そんなものが無かった時代。水がその役割を担っていたのに違いない。 自分はまだ水で足りている。そういう事。 ペットボトルの水なんて高いだけだという人もいる。 でも、個別の、その容器だけの、だから特別な感じがするところが好きだ。 ただ要するに、パッケージエコノミーにどっぷりと浸かってしまっているだけなんだろうけど。 それが今日はいつもと違っていた。     
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