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 多くの人々が行き交う駅前の大通り、生活が根付いた住宅街。  何処にでもある景色だけど、表通りから離れたところに必ず1軒は見かけたことがあるはず。  人が住んでいるのか、住んでいないのか解らない家。  大きな窓は雨戸で閉ざされ、雨戸の無い台所や風呂場の出窓に置かれた調理道具や洗剤が同じ向きで同じ位置に並んだまま。  庭や玄関先には壊れた自転車と雑草だけのプランター。古く変色したコンクリブロック塀の隙間から見える荒れ放題の庭。  経験が、あるでしょう?  誰も住んでいないと思った家のそばを暗くなって通りかかったとき。  中に点る仄かにオレンジ色の明かりを見てドキッとしたことが。  ある日気付くと、更地になっている事もよくある。    血塗られた噂が絶えない『赤絨毯屋敷』は、そんな住宅街の片隅にひっそりと建っていた。
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