1

17/39
前へ
/39ページ
次へ
急いでシャワーを浴び、髪を乾かし歯磨きトイレも済ませて、翼は目黒に電話をかけた。 「お待たせ致しました、チーム長」 翼の声は、緊張しているように上ずっていた。 「速かったな。急がせたか?ごめんな」 スマホ越しに聞く目黒の優しい声が翼の胸をドキドキさせる。 「あの、もういつ来てもらっても…大丈夫です」 なんだか、部屋に上司を誘っているような気分になってきた。 緊張しながら、翼はパジャマの第1ボタンに指で触れ、こねくり回しながら目黒の返事を待った。 「あーうん。そうしたかったんだけどさ、急にこっちにいる大学んときの友達と会うことになってさ…それで」 「……」 突然、緊張の糸がプツンと切れてしまう。 なんだ、そうか。チーム長は今夜友達の家に泊まるのか。 それなら、焦らなくて良かったじゃない。 もっと早く言ってよね。 「…わかりました。じゃ、明日は、そちらから札幌支社に直行するんですね?」 心なしか翼の声が小さくなっていた。 「うん、そうするよ。あれ? もしかして、寂しい?」 「っ!まさか!寂しいなんて少しも思ってませんから」 慌てて否定する翼。 「そうだよな?いない方がせいせいするだろ?わかってる」 せいせいする。 チーム長がいない方が……。 翼は、広い部屋を見渡した。 今夜はこの無駄に広い部屋に一人きりだ。 広々として……。 「じゃあ、明日な」 早く通話を終わらせたいように、目黒から会話を終わらせる科白を口にしてきた。 「はい…明日」 がらんとした豪華なツインルーム。 こんなことなら、狭いビジネスホテルのが良かったのに。 電話を切り、スマホをサイドテーブルに置いた翼は、きっちりベッドメイクされた隣のベッドを眺めた。 これで手足を伸ばして寝られる。寝相も気にしなくて済む。 スッピンも気にならないし、朝のメイクも気兼ねしないでゆっくりできる。 翼はゴロンと横になって両手と両足を伸ばした。 少ししてサイドテーブルに置いたスマホが振動した。 手を伸ばしてスマホを手に取り横になったまま画面を眺めた。 次の瞬間、翼はベッドに跳ね起きて画面の文字を再び目で追っていた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加