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1階にある『ラウンジ・バー・オールドサルーン1934』。
いかにも老舗ホテルらしく落ち着ける雰囲気が漂う正統派なBARだ。
そんな店内では丁度、ピアノの生演奏に加え綺麗な女性ボーカルの歌声が流れていた。
テーブル席は、ほぼ満席に近い状態で翼と目黒はカウンターに並んで腰を掛ける。
注文を済ませたあと、
「なあ、ソバカス」
目黒は身体の向きを少し翼に向けた。
カウンターに右肘をつき掌に頬を乗せて顔を傾けながら翼を見つめる目黒。
その瞳があまりにもまっすぐで優しく微笑んでみえたので、翼は少し動揺していた。
「…はっ、えっと…何ですか?」
「お前の好きな色って何?」
「いきなりなんです?」
「いいから何色?」
「オレンジ色ですかねぇ」
「そっ」
自分から小学生みたいなことを質問してきたくせに素っ気なく答え、目黒は身体の向きをなおした。
「え、なんなんですか?」
「聞いてみただけだよ。悪いか?」
前を向いてしまった目黒を翼は肩すかしをくらった思いで眺めた。
顎のラインがシャープで鼻筋に乱れがない。
いつも目力の強い瞳は、今は夜の湖みたいに穏やかだ。瞬きをする時に強調される長い睫毛。
下向き加減だった長い睫毛が、急に上に向いた為に、BARの店内の光が瞳に入りこむ。
それは、まるで夜の穏やかな湖畔の水面が月あかりにキラキラと照らされている風景を翼に思い浮かばせた。
「ソバカス、俺の顔を見過ぎだぞ」
翼の方へため息まじりに顔を向ける目黒。
「いったいどういうつもりで俺を見てるんだ?ん?」
目黒はぐいっと翼の方へ肩を近づけてきた。
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