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「どれもダメです。私は出張に来ただけですから」
「硬い。ガードが硬い」
「言いましたよね?私とチーム長は、そういう仲になりませんって」
「初めて聞いたな。そんな話。デマだな。俺は信じない」
「は?信じなくても私はチーム長を上司としてしか見ないつもりなので」
「え?なに?聞こえないぞ」
音楽のせいで聞こえないみたいに言って目黒は翼の方へ寄り耳の後ろに掌を当ててみせた。
仕方なく翼は、目黒の方へ向き少し近寄る。
耳元でおなじ科白を言おうとした時、急に目黒が翼の方へ顔を向けた。
耳の後ろに当てていた手が、翼の首を後ろから掴んだ。
お互いに近づいた状態で、お互いの顔を見つめていた。
視界の中に目黒の顔しか入っていない。
それくらいに接近していた。
「なあ、この状態でも俺を上司としてしか見られない?」
音楽が止まり、一瞬静かになった店内。
今、目黒に触れられている首筋をジンジンと刺激するものが、血液の流れによるものなのか、それとも目黒の手のせいなのかわからなかった。
拍手が沸き起こり、そのせいでビクッとなる翼。
何してんだろ。
「チーム長は……上司です」
自分にいい聞かせるようにして、翼はスツールからおりる。
「ち、ちょっと、化粧室に」と断りをいれ、翼は目黒から逃げるようにカウンターから離れた。
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