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化粧室で、翼はボウッとして鏡を見つめた。 「どうにかなっていいはずがない。チーム長は私にちょっかい出してからかっているだけ。本気にしたらダメ。しっかりしなさい!山梨翼っ!」 翼は、蛇口の下に手を入れ自動出てきた水で手を洗った。冷たい水が予定外に熱くなった自分の気持ちを冷静にしてくれる。 チーム長は、ただの上司。 仮に好きになっても、チーム長はウチの会社の会長の孫だ。 地位が違いすぎる。地位だけじゃない。見た目もバランスが悪い。 ものすごいイケメンと、中途半端に地味な女。 合わない。 どう考えても似合わない。 私は、安上がりな女と言われるくらいのダメ女だ。 チーム長の話を真に受けたら、また傷が増えるだけだ。 冷たくなった手を温風が出る機械へ入れて乾かし翼は、もう一度自分の顔を鏡で見た。 言いたくなかったけど、客観的にみると、目も少し離れてるし、鼻も低い。唇も平凡でぽってりしてもしてない。どこにでもいる特徴のない、ほらっ、こんな顔。 疲れ切ってクマも酷いし、肌も曲がり角。 もうっ、チーム長ってば、なんで私にちょっかい出してくるの? 早く部屋に入って寝たい。 でも、今夜は部屋も一緒だ。いったい、今夜これからどうしよう。 化粧室の中を落ち着きなく、うろついてみても、何のいい案も浮かんでこない。 化粧室に立て籠もるわけにもいかないと判断した翼は、せむし男になるくらいに肩を落として仕方なく店内へ戻るしかなくなっていた。
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