第一章

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「女に生まれたんやから」 そう理由を必ず何かにつけてくる。 女に生まれたんやから掃除しなさい。 女に生まれたんやから洗い物しなさい。 女に生まれたんやから洗濯干しなさい。 女に生まれたんやから風呂掃除しなさい。 そう言ってあの人はタバコに火をつける。 父親は仕事仕事で家にいない。 貧乏暇なしとはこのことだ。 運動会や発表会はもちろんのこと、入学式や卒業式も来てもらった記憶がない。 だけど父は優しかった。 たまに顔を合わせるとくしゃくしゃ笑顔で笑いかけてつまらない冗談で場を和ませてくれるような人。 あの人が駆け落ちしてまで付いて行った理由はわからなくもなかった。 あの人がそんな父に惚れ込んでいたのは娘の目から見てもよくわかった。 父がいない時のあの人と、父がいる時のあの人。 どちらが本当の姿なのかわからなくなるほど変わってしまう。 声のトーンまで変わってしまう。 「お父さん帰ってくるからちゃんとして!」 ちゃんとする?笑 何を? 普段もっぱらスッピンでノーブラで過ごすくせに父が帰って来ると化粧に時間をかけ、その間に娘に部屋を片付けさせた。 あたしはそんなあの人が気持ち悪かった。
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