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私と娘は手を止めて、お嬢ちゃんに目をやる。
クーラーボックスを凝視しているお嬢ちゃんを認めると、私は娘と頷きあった。
「あの…今日のお昼はどうなさいます?
どこか予約してるとか…行きたいお店を決めてあるとか…」
私が父親に恐る恐る訊くと、父親は苦笑して頭に手をやった。
「いやそれが…こんなに混雑しているとは知らなくて…
どうしようか思案中です」
私はお嬢ちゃんを見ながら勢い込んで言う。
「もし宜しかったら、このお弁当、一緒に召し上がっていただけませんか?
図々しいお願いとは解っておりますが…」
お嬢ちゃんの顔がぱっと明るくなる。
父親は「いえ、そんな…これ以上ご厚意に甘えるわけには…」と両手を振った。
「いえいえ、こちらからお願いしているんです。
私、本当に加減ていうものを忘れちゃってて…大量に作りすぎてしまって。
大食漢の息子をあてにしていたんですが…」
私が更に言うと、父親はお嬢ちゃんの顔を見て、そこに懇願の表情を読み取ったらしく、ため息をついた。
「本当に申し訳ありません…では、お言葉に甘えさせていただきます」
そう言って、私の手からクーラーボックスを取ると「重いですね」と笑いながら肩に背負った。
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