息子からの電話

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 駐車場の傍にあるトイレで娘が着替えている間、父親が私に「お弁当を食べられる場所なんてあるんですか?」と訊いてきた。  「ええ、ピクニックエリアと言って、パーク外なんですけどね。  うちはいつも、レストランを予約しないときにはお弁当にしてるんです。  とにかくどこへ行っても行列で、待っている時間がもったいなくって」  「貧乏性なもので」と言って笑うと、父親は思わずと言った感じで微笑んだ。  「いえ、賢い選択ですよ。経験則から解決法を正しく導いている」  あ…笑うと意外に柔らかい印象になるんだ…  スーツの似合いそうな、如何にもデキるビジネスマンといった風貌で、冷たい印象があったんだけど。  「お待たせ~~」と娘が走ってきた。  四人でピクニックエリアへ向かう。  娘とお嬢ちゃんはすっかり仲良くなったようだ。  娘は学校でも友人が多く、他薦で学級委員になったりして、先生から「クラスの潤滑油的な存在です」と言われる。  私の隣で重いクーラーボックスを担いで歩きながら、父親が呟くように言った。  「うちの娘は、学校でなかなか友達ができなくて…  もともと引っ込み思案なので、習い事なんかも続かないようで。  なのにお嬢さんとは、こんなにすぐ打ち解けて…驚きました」
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