目が覚めて

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 そして、子供たちがそういう話を夫にしたということは、…夫も、私が真波ちゃんのお父さん(松永さんと言う名前は知らないと思う)と、恋愛関係にあったと知ったということだ。  昨夜はそれについて何も言ってはいなかった。  普段まったく関心のない妻でも、浮気を知ってさすがに動揺していたということだろうか。    だけど昨夜、家に帰って一人、何を考えたのだろうか。  怒っているのか、それとも黙って離婚届を書いているのか。    離婚…そう考えて思わず身震いする。  私に有責事由があるから、文句は言えない。  だけど子供たちは、どうするんだろう。  不倫なんかする母親より、身勝手でも父親の方を選ぶんだろうか。  子供たちと別れたら私は…生きていけない。  改めて、私はとんでもないことをしていたのだと気づいて、また声をしのんで涙を流す。  ティッシュを取ろうとして、時計が8時40分を指しているのに気づき、職場に電話しなければと、カーディガンを羽織ってスマホを持ってベッドを出た。  まだ息が苦しいし、足に力が入らずよろけるのでゆっくり歩いて公衆電話のある場所まで行き、壁に寄り掛かってスマホで職場に電話する。  電話がつながって「おはようございます、坂川ですが…」と言いかけると「あれ?先ほどご主人からお電話があって、体調が悪くて入院になってしまったので2~3日休みますってご連絡いただきましたけど、大丈夫なんですか?」と言われて、私は焦る。  「あ、そうなんです…今、病院で…  じゃ、あの、ご迷惑かけますがすみません」  と言って「お大事にしてくださいね、ゆっくり休んでください」といたわられながら電話を切った。  また息苦しさと戦いながらトイレに寄ってベッドへ戻る。  夫が、私の体調を気遣って職場に休みの電話を入れてくれるなんて…  まだちょっと信じられない。  子供たちが何か言ってくれたのだろうか?  ベッドのふちに腰かけて、ひとりでぜーは―やっていると、看護師さんが来て「まだ苦しいですか?肺のX線撮影してから、先生からお話があるので、できたら移動していただきたいんですが…」と言う。  「あ…大丈夫です、行きます」  と言って支えられながら立ったとき、「深雪、具合はどう…」と言いながら夫がカーテンを開けた。  「洋平…」私は驚いて夫を見る。  来るとは言ってたけど、どうせ会社に行っちゃってると思ってた。    「あ、ご主人ですか?  検査があるので、一緒に来ていただけますか」  看護師さんはてきぱきと言って、私を支えて病室を出る。  夫は慌てて追いかけてきて「すみません、代わります」と言い、私の肩を抱くようにして進む。  私は夫の体温に何故かとても安心して寄り掛かって歩いた。      
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