目が覚めて

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 外来診療が始まる前なので、待たずにレントゲンを撮ってもらうことができた。  終わるとすぐに、診察室の前で待つように言われる。  先生は私よりも少し年上くらいの、穏やかな男性だった。  私は何となく中山先生を思い出し、そうだ後でお礼を言わなければとはっとする。    そういえば、どうして中山先生が昨日、あの場にいたのか判らないし(多分、声をかけてくれたのは中山先生だと思う)、我が家の電話番号を知っていたのかも判らない。  内科の先生の話では、今朝採血した検体を検査したところ、重篤な感染症ではなく白血球の数は少し多いけどまあ通院で大丈夫でしょうということだった。    肺も少し白い影が写っているけれど、どこかが特別に悪いということではなく、全体に軽い炎症が起きている程度だと言われ、私はホッとする。  病室に戻り、退院の手続きについて夫が聞いてくるというので、私は夫が持ってきてくれた服に着替え、簡単に身なりを整えた。  帰宅して夫がどんな話をしてくるか判らないけど…  落ち着いて話し合いに応じないといけないと、自分に言い聞かせる。  それだけのことをしてしまったのだ、私は。  甘んじて夫の罵声も受けよう。  やがて夫が戻ってきて「これ、しといたほうがいいぞ」と言ってマスクを渡してくれる。  「外、結構寒いからな」  「あ、ありがとう…」  私は少し戸惑って受け取る。  夫らしからぬ気の遣いように、まるでついていけない。  「洋平、仕事は?」  さっきから気になっていたことを訊く。  夫は持ってきた紙袋に私のパジャマやタオルを突っ込みながら「ああ、今週は在宅勤務にした。WEB会議の時間には強制的にパソコンの前に呼ばれるけど、後は家にいて大丈夫だ」と何でもないように言う。  「え…そんなことできるの?」  私は驚いて訊き返す。  そんなの今まで聞いたことないよ。  営業は足で稼げ、って言ってたじゃないの??  「営業つっても、俺は部下を管理する側だから、あんまり外を出歩くわけじゃないんだよ。  だけど部下がトラブったときは、一緒に謝りに行ったりするから…トラブルがないことを祈るしかないな」  淡々と語る夫を、唖然として見つめる。  夫が私に関心がないと一方的に思ってたけど、私も夫にまるっきり無関心だった。  でも、聞いても答えてくれないこともあったと思う。   
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