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「よ、洋平だって…人のこと言えるの?
いつも家にいないし、子供たちのことだって知らんぷりだし。
過去だって現在だって、そういう女性がいるんじゃないの?」
夫はビックリしたように私を見て「いないよ!」と大きな声で言う。
それから言葉を続けようとして、急に口を閉じてまた大きくため息を吐く。
「確かに…結婚してから、深雪に家のこと子供のこと、全部押しつけて遊んでばっかりだったよな。
深雪に対して疚しい遊びはしたことないし、純粋に仲間たちと趣味に没頭してただけなんだけど」
「仕事が本当に忙しかったときもあったけど、深雪が自分の仕事とか子育てに一生懸命で、全然俺のこと構ってくれなくて…
たまに手伝っても文句言われて、もういいよ勝手にしろって思ってた」
はあ?何よそれ…
私は初めて夫の本音を聞いて、そのガキっぽい理屈に呆れる。
夫は私から目を逸らして、首の後ろに片手をやって話を続ける。
「今回、中山先生に深雪が惚れてるんじゃないかと思ったら、すごく焦っちゃってさ。
それで、時間が許すときには早く帰ったり、年末年始は家にいるようにしたり、何とか深雪の気持ちが完全に先生に向かないようにと」
ああ、それでなんだ。
私は年末からの、夫の奇妙な行動をようやく理解し納得した。
「昨日、お父さんが夫らしくも父親らしくもないから、お母さんがそういう風になっちゃったんだって子供たちに罵倒されて、愕然とした。
直樹は中山先生と電話で話したときに、かなり詳しいことを聞いたみたいで、深雪に同情的だった」
「美鶴も、お母さんはお父さんと離婚すればいいのにって前から思ってたとか言って…」
「一般的に見れば、断然俺の方が被害者なのに、子供たちには全然違うみたいだ。
むしろ当然と言ったような感じで、俺は今までの自分の来し方が完全に間違っていたんだと知って言葉もなかった」
私は、思ってもみなかった子供たちの思いを知って、涙がこぼれて止まらなかった。
ごめんね…
母親の浮気を知って2人ともつらかっただろうに、それでもこんな母親の味方してくれるんだ。
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