鼓豆虫

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 4月の半ばの休日、中学に入って新しくできた友人たちと遊びに行っていた娘が帰ってくるなりスマホを私に見せて「これ、ゲンゴロウ?アメンボ?」と訊いてきた。  スマホの画面には、小さな黒い虫が写っていた。  水面を泳いでいるようだ。  「えー…お母さん判んないよ…」  私が困って答えると、夫が後ろからのぞき込んで「何だ鼓豆虫(みずすまし)じゃないか」と言う。  「鼓豆虫?」  私と娘が訊き返すと夫は私に、手に持っていた淹れたてのコーヒーを渡してくれながらうなずく。  「ゲンゴロウと似たような感じだけどな。  池とか水溜りとかの水面で生活してて、複眼なんだけど水中と水上の両方を見られるように分かれてるんだよ」  へえ…と聞く私と娘に、夫はコーヒーを一口飲んで続ける。  「関西ではアメンボって呼んだりするみたいだな。  アメンボっていうのは、長い6本脚で水面に接してる虫のことで、見た目全然違うんだが、昔から呼称では鼓豆虫と混同されてる」  「ふーん、そうなんだ。  LINEで皆に教えてあげよう」  娘は言って、スマホを見ながらリビングから出て行った。
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