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言い捨てて、テンライは石の鳥居をくぐり森へと入っていった。彼につづき、ほかの祭使たちも村人を押しのけて鳥居をくぐっていく。
「……俺たちも参りましょう」
ぬぐえない違和感にわずかな迷いを見せたあと、カララクは歩きはじめる。
カララクが目のまえを通ると、村人たちは震えながら後退った。狼の面を被る異様な姿。それを目にしたことを後悔するように、皆が視線を伏せた。
ひびわれ、崩れかけた石の鳥居をくぐる瞬間、
「この森には、咎人の死霊がわく」
村人の誰かがつぶやく声がしたが、振り返っても声の主はわからなかった。
***
鎮守の森は、人智の及ばぬ不可侵の領域。
地に根を下ろした木々が、幾千年をかけて巨木となり天を目指す。広大な緑の海原だった。
この森の奥から神木の枝を採取し、証として首府へ持ち帰ることが祭使の務めだ。
鬱蒼としげった枝葉にさえぎられ、樹海の上空からではシシト獣を降ろすことができない。また、ひとたび森にとりこまれてしまえば、そこから飛び立つこともできない。頼りなく徒歩で森の最奥を目指せば、魂まで森に絡めとられていくような気がした。
むせかえるほど木々の香が強い。こんな滴るような緑を、私は知らない。
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