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「おまえたちのことなど知ったことか。村まで巻き込むなと言っている。見ろ、この村を! 得体の知れない植物や動物が増えるばかりだ。こいつらは、すべて森からやってくる」
ざわり、と黒い森が風に揺れる。男は背後に迫った森に怯えるように肩を震わせた。男の様子と村の景色を、金獅子の鞍上から睥睨し、テンライは笑う。
「作物が育てば食うに困らんだろう?」
「…………! ああ、そうとも! それもすべて税として巻き上げられるがな!」
吐き捨てられた言葉に、テンライは眉をひそめる。
「税?」
「いくら作物が育っても、俺たちには何も残らない。こんなことが罷り通るとは、イズミ郷守の目は節穴か」
「そのこと、郷府には報告したのか」
「当たり前だ。訴状をしたため何人もの使いを出したが、なんの音沙汰もない。その上、〈大騎行〉の祭使だと? 俺たちの苦労を知らずに、よくもぬけぬけと!」
男の怒声を受けて、テンライは何事かを考えるように腕を組んだ。そして、実につまらなそうに言う。
「なるほど? それは本当にご苦労なことだったな。だが、何も報われていない以上、おまえ達の苦労はすべて無駄だったということだろう」
そこをどけ、ともう一度命じたテンライに同調して、相棒である金獅子が前に出る。気おされて退いた男の前を、テンライは悠然と進む。
「気が向いたら郷府にこのこと、伝えておいてやろう」
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