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労基署からの文書が届いてから半日が経った。金井は坂本の電話を再三鳴らすが、つながる気配はない。
「これは参ったな……」
金井はそう言うと書棚の奥深くから坂本の過去のタイムカードを引っ張り出してきた。
月曜 7:21-22:00
火曜 7:08-21:45
水曜 7:04-22:15
木曜 6:51-22:00
金曜 7:31-21:15
土曜 8:47-18:00
タイムカードを見ると、こんな数字ばかりが立て続けに並ぶ。この週だけでも坂本の時間外労働は普通に見積もって35.5時間。これが3年分も請求されるとなるとたまったものではない。金井が払わなくてはならない時間外労働手当は500万円は軽く超えてしまう計算だ。事業所が軽く吹き飛んでしまいかねない額である。
ーー何とかしなければ!
そう思った金井がまず最初に考えたのは坂本の懐柔。20万から30万くらいの金を払って訴えを取り下げさせる方法だ。しかしそれはすぐに金井の頭の中から消し飛んだ。内容証明郵便を送りつけてくるレベルにまで坂本は態度を硬化させているのだ。ましてや今は坂本との連絡がつかない状況。うまくいく可能性は極めて低い。
金井は頭に右手を置きながら顔をしかめた。次に考えたのはタイムカードの隠蔽。タイムカードは見当たらないのでかわりに出勤簿を、坂本の出勤日を月曜から金曜、土日は休み、出勤時間は毎日8時半から17時半と記入して提出するのである。しかしそれは思い留まった。労基法上使用者側にはタイムカードを3年間保管する義務があり、出さないとなったら金井の立場が余計にまずくなる可能性があるのだ。
ーーだとすると、コレしかない。
金井は腹を決めると、タイムカードにボールペンを走らせ始めた。
呼び出しの日時は3日後。時間は限られている。
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