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空白の5時間
3日後。スーツ姿の男2人と坂本の3人が事業所の前へとやってきた。額にシワがあり黒縁のメガネをかけている男は安田、スキンヘッドで肌ツヤのいい男は米澤というらしい。付けられた名札にそう書いてある。
「君、今日は出勤日じゃないか!無断欠勤とはどういうつもりだ?」
「休暇届は内容証明郵便ですでに送らせていただいてます。無断とは心外ですね」
坂本はそう言って控えの郵便物を突き付ける。
「とにかく、まずは席に着いてじっくり話を伺います」
憮然として黙り込んだ金井に安田がそう告げると、
「すみません。どうぞこちらへ」
金井は手のひらを返したような笑顔で安田に告げた。
金井は安田と米澤の2人だけにお茶を出すと、ポーカーフェイスを装いながら席に着いた。米澤は出されたお茶に一口だけつけると、早速口を開く。
「それで、坂本さんからそちらの事業所で時間外手当の未払いが発生しているとの訴えがあったのですが、まずはタイムカードを見せていただけますか?」
「あ、はい。坂本君のタイムカードですね。こちらです」
金井はにこやかな表情を崩さずに3年分のタイムカードを机の上に並べた。
「なるほど……ほとんどの日が7時台に勤務が始まり、21時半以降に勤務が終わっていますね。しかもは週休1日しかないようだ。さすがにこれで時間外手当を全く払わないのはまずいのでは?」
安田のメガネの奥が光った。しかしその視線を受け流すかのように金井は首を横に振る。
「いや、時間外手当を払わないのは正当な処理だと当事業所としては考えています」
金井は涼しい顔でそう言い放った。
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