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慌ててカフェオレの紙パックを飲もうとすれば、空っぽだったことに遅れて気付く。ずずっ、と乾いた音が鳴る。無様だ。
「……購買行ってくる」
逃げるように教室を出て、須田の横を通り過ぎると、さらなるまさかが起きた。
「あ、俺も行こうかな」
いや、付いてくるなと言いたかった。しかし、一緒に行こうと誘われているわけでもない。
振り返ることなく、階段を下りたところで袖をぐいっと引っ張られた。足を止めざるを得ないし、振り向いて一言文句をぶつける権利もあるだろう。だって危うく足を踏み外すところだったんだぞ。
「……何?」
自分よりうんと低い相手を見上げる体勢だった。これほど近くで顔を付き合わせたのは、実は初めてである。いつも、決して気付かれないよう注意してたんだ。
「ちょっと、さ。話したいことがあるんだ。いい?」
心臓が一つ、大きく跳ねた。音にするなら、ドクン! だ。
気取られないよう、何気なく視線を反らす。不機嫌さを隠すことなく、「どうぞ」と言ってみた。
「えと……。その、人のいない所で頼むよ」
最悪だ。
◆
階段の踊り場で、関わりたくない相手と二人きりで対峙した。
せめて、出来る限り距離をあけたい。なので俺は壁に背中を預け、腕を組んだ。いかにも不服そうな態度で相手の出方を待つ。視線は合わせない方向で。
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