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「あー、さっきお買い物行ったばっかだから三十分くらい平気だよ」  やっぱり。密かに胸を撫で下ろす。  勝手知ったる我が家、とまでは行かなくてもそれに近いつもりで廊下を進み、ノックもせずに灯の部屋へ入った。 「はっ!? なな、なんでっ!」  いじけたときの相棒である羊を抱いた灯は、ベッドの上で跳ね起きた。一目で泣き腫らした顔であることが分かって、まずは「悪かった」「ごめん」と謝る。 「そ、それ以上来るな馬鹿っ!」  羊が俺目がけて飛んできたが、あとわずかな距離で床へくたりと落ちた。それを拾うためにも、言う通り足を止めた。 「灯……、ごめん」 「すげーセクハラ発言! ほんっっと、信じらんねっ」  灯は狂ったように「馬鹿」だの「恥を知れ」だの言って俺を罵った。顔を合わせるのも苦痛らしく、壁に身体を向けて座り直した。その背中を見つめ、続く言葉を探しあぐねた。  一分くらい、沈黙を保ったかもしれない。羊を脇に抱えながらそろそろと近付く。 「……でも、オーケーしてくれて良かったのに」  俺の発言に、より激昂した灯は振り返り、涙が零れるのも厭わず叫んだ。 「ふざけるな馬鹿っ! く、来るな馬鹿あっち行け、帰れ馬鹿っ!」       
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