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 スマホで時間を確認すると、母から矢のようなメールが届いていた。「まだ帰らないの?」「どこにいるの?」「連絡しなさい」等々。それを見て、今週は夜勤ではなかったと思い出す。そういう大事なことは忘れないよう注意していたのに、今日は何も考えられなかった。  今すぐ帰るとメールを飛ば……、飛ばそうとして、その短い文面を一文字ずつ消去した。 ――それで? 私の可愛い灯がこんな目に遭った責任は誰にとらせるの?  不意に、というよりずっと、あの夜から耳にこびりついて離れない春さんの叱責が鮮明に聞こえた。  常に俺の心を騒がせ、戒めているのは母の存在だった。誤魔化しても手に入れたいと本当に思っていた。でも、それだけじゃ足りないと思い知る。灯に誠意を見せて、本物の覚悟をもって向き合いたい。  逃げるのは、もういい加減やめてみよう。  そして、もう一つ勇気が出せずに放置し続けたことにも挑もうと思った。実はずっと、こういうキッカケが欲しかったのかもしれない。  死ぬまでに叶えられればいいと思っていたのに。  母に真実を聞かされた時から勝手に想像を膨らませ、ひょっとしたらと縋る気持ちがあった。そんな気安いことを考えるのはいかにも自分勝手だった。  密かにお守りだと思っていた携帯の番号を慎重に、息を止めてタップした。   十回だ。  十回コールしても出なかったら、それで終わりだと思おう。  プルルルル、プルルルル――プッ。 『はい、もしもし?』
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