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 須田は風が吹けばひっくり返りそうな頼りなさで立っている。相当緊張しているようだ。俺をここへ誘導したのはいいが、最初の一声を何度もやり直している。 「あ、あの」「ええとね」「つ、つまり……」「そのぉ」    こんな調子でじりじりと時は過ぎていた。  視聴覚室と音楽室がある最上階は、あの時のように人気のない場所だ。そのことを須田も思い出し、冷静になろうと頑張っているのか。額に浮かんだらしい汗を、日焼けしたこともなさそうな真っ白な腕で拭う。続けて俯きっぱなしの顎の下も。力なく垂れていたもう一方の手は、無意識にか、胸の辺りをぎゅっと掴んでいた。 「美術室のことだったら誰にも言ってない」  十中八九そのことだと思い、ついに俺から口火を切った。案の定、須田は勢いよく顔を上げ、零れそうなほど目を広げた。そこに俺への非難や恐れ、不安な色は一つもなかった。  この瞬間、俺の行動は須田にとって、救いだったのだと確信した。 「あ、あり、がとう。本当に、ありがとう」  感謝されてしまった。それも、今にも泣き出しそうな笑顔で。  うっ、いかん。  思わずばっちり目を合わせたことに内心狼狽えた。わざとらしく喉を鳴らすことで、冷静になった。 「あー、その、あいつらに仕返しとかしなくていいのか?」  須田は少しの迷いもなく頭を振った。 「なんで」  馬鹿じゃないのか。 「ごめん」     
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