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渡り廊下へ躍り出た灯は、かつらがズレるのを気にしてか頭に手を添えていた。襟の詰まったドレスはベージュゴールドのイブニングドレスだった。あるはずのない胸が程よくあって、大きく上下していた。腰はもう目を覆いたくなるほど細い。裾は完全に引きずってる状態だ。
その意表をつきまくりな格好を見て、痛みを我慢しても笑いたくなった。
芝生を踏みしめ、俺と灯はゆっくりと距離を縮めた。
「よ、ようやく、見つけたぁ~」
力尽きたと言わんばかりに、灯が座り込む。ボリュームたっぷりなスカートがまるで灯を守るように膨らむが、それを押しのけて俺も地面に膝を付く。目の高さが同じになると、磁石のように視線が繋がった。
「なに、その格好? かわいい」
金髪の巻き毛をした灯は、今初めてそのことに気付いたとばかりに頬を染める。濃い睫毛が慌ただしげにパチパチ音を立て、瞳が潤みだした。薄茶に染まった眉は下がり、ぷっくらと色づく真っ赤な唇がわなわなと震える。
「ここっ、これは、その、家政科の子に泣きつかれて……。ファッションイベントで必要らしくって。絶対、俺だって分かんないようにしてくれるならって条件で……あんまりにもしつこいから、つい」
灯は押しに弱いからなぁ。
しかしまぁ、女子の変身技術はすごいな。メイクの力は偉大だ。尊いものを見せてもらった。有り難い有り難い。
「でも、俺は分かったぞ」
歯を見せて笑おうとしたが、「いてて」と頬を押さえる羽目になった。
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