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「だ、大丈夫? その怪我どうしたの? 何……やってんだよ。せーまが怪我してるって聞いて……俺、じっとしてられなくて」
もう、と頬を膨らませながら涙を零す灯。
金髪美女と顔に傷のあるギャルソン風男が手を取り、見つめ合っている。まるで芝居のような場面に、物珍しそうに人が足を止め、注目され始めていた。しかし、お構いなしに俺は続ける。
「母さんに、灯のこと話した」
「えっ?」
ハッと見開かれた瞳に分厚い涙の膜が張る。目尻を指で撫で、少しずつ拭き取ってやった。
「許して、もらえなかった。家から出ていけって」
俺の顔を見るのがもう、耐えられないからと。
「でもな、大丈夫」
「な、なにが……、だいじょぶな、もんか。馬鹿ッ、ふざけんな」
長く、濃い睫毛に灯の涙がとめどなく溢れる。慌てて灯の頬を包み、俯きかけた顔を無理矢理俺に向けた。
「父さんが、味方になってくれた」
刹那、灯は形の良い眉を曇らせる。おそらく、俺と父の関係がどんなだったかを頭の中で整理しているんだろう。
「父さんと、一緒に、暮らすんだ」
確か、男の人と不倫したあげく、家族を捨てて出ていった。その人が? え? え?
と、まるで灯の心が手に取るように読めた。だからコクコク頷く。
「あー! 対象発見、ただちに連行ーっ!」
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