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どこからともなく現れた女子の一団が、灯をあっという間に取り囲む。
「うわぁ! 衣装ぐちゃぐちゃ! 髪のセットやり直しっ」
「やだちょっと、なんでそんな泣いてるの!? メイク崩れてるぅ!」
「あ、こらっ、顔こすらない。信じらんないわーもー」
とても良い雰囲気だった俺と灯を引き剥がした彼女らは、おそらく家政科の生徒。なぜってすぐに灯を立たせて連行していくから。まるで俺など眼中にない。
「ご、ごめん……」
灯は素直に謝りながら、名残惜しそうに俺を見て、目で訴えかけてくる。「またあとで」と口パクで伝え、手を振って見送った。
太陽みたいに目立っていた灯がいなくなると、観劇していた聴衆は残念そうに散開していく。そして、ずっと見守っていた白井がコソコソ耳打ちしてきた。
「今の、マジで灯ちゃん? 絶対あれ女の子じゃん?」
俺とラブシーンを演じていた相手が、女装した男だなんて誰も気付かないだろう。
「胸あったよな? 腰なんかすっごい細くて二の腕なんか白くてすべすべぇ-、いたた!」
「今しゅぐ忘れりょ!」
しまった! 焦って言うあまり、舌が回りきらなかった!
だって、今すぐ白井の脳内から灯の姿を消したかったんだ。
「ぷっ! ふ、はははーっ」
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