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事実を知らされた時は正直、本当は会ってみたいと思った。きっと、ずっとそうだった。
近場のファミレスへ入り、ぎこちなくも会話をした。父はごく近所で平凡なサラリーマンをやっている。恋人はいないし、再婚もしていない。一人で生きているんだ、と言い、いちいち「ごめん」と謝罪を挟んでくる。
「父さんのその……、相手のことを知りたいなら話すよ。けど、まずは静馬の相談が先だよね?」
そう促され、灯のこと。母を傷つけた過去。母が今、ようやく新しい幸せを手に入れようとしてることも、全て話した。すると、父は深々と頭を下げて何度も謝った。それから「今から一緒にすみれちゃんの所へ行って、話をしよう」と提案した。
母の名を口にしたとき、父はやや伏し目がちになった。ずっと泣きそうな顔をしているけど、本当に涙を零すんじゃないかとヒヤヒヤした。
まずは自分一人で話すと決めた。父が家へ踏み込んだのは、食器棚に俺が倒れ込んだ直後だった。突如、マジックか何かのように現れた父を見て、母はしばらく固まっていた。それから火が点いたように再び暴れ出したのを、父が抱きしめて宥めた。
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