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話し合いは深夜まで続いた。俺が部屋で休んでいる間に帰ったらしい父は、朝になったらまた家を訪ね、丸一日俺の今後について話し合った。二人とも仕事を休んだのだ。
その結果、父が俺を引き取ることになった。
怒濤の展開はものの三週間で決着となり、十二月初旬、俺は最後に残ったリュックを背負う。和室で洗濯物を畳んでいた母を探し、「父さんが迎えに来たから行くね」と告げた。
「遠野さんと、幸せになってね。ごめん」
母の丸い背中を見て、静かに襖を閉めようとした。その時。
「……ごめんね、静馬」
搾り出したような声が、かすかに耳に届いた。
「母さん、自分が怖い。またいつ、貴方に手を上げるか……分からない」
「殴られて、当然だから。気にしてないよ」
こんなのが慰めになるか分からない。でも、母を怒らせ、悲しませる自分が全部悪いんだ。
「それに……日に日に、静馬があの人に似ていくから……顔を見るのが辛かった」
「うん……」
電話するから、と付け足すと無言で頷いてくれた。そこは拒絶されなかった。
今度こそ「じゃぁね」と襖をぴたりと閉める。玄関に向けて足を向けると、また母の嘆きが聞こえてきた。
「あの時、あの人の言うことを信じて、待てば良かったの?」
誰の返事も期待してない声が、しばらく耳の奥に居座った。
ただひたすら、母と遠野さんの幸せを願おう。
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