せーまの灯り

１７

　血の繋がりに縋るように、俺と父のぎこちない生活は始まった。お互いを呼び合うことも照れくさく、距離の計り方も慎重。けれど不快とは程遠く、これは前向きな努力である。
　父の住むマンションは驚いたことに灯の近所で、以前よりも行き来が楽になった。
　そして期末テストも終え、冬休み間近という週末に俺と父は須田家の夕食に呼ばれていた。

「あぁ、静馬。どうしよう……、何を着ていこう？」

　父が両腕に何本ものネクタイやジャケットを掛けて訊ねてくる。俺はデニムにスウェットというごく普通のカジュアルな姿、というか部屋着にも等しい格好で行くつもりだった。なのに、父は大層敷居の高いレストランにでも行くつもりなのか。一時間も前から頭を悩ませている。

「あの……、そんなに畏まった格好しなくていいと思うよ」

　父は俺に似た細い目をやや見開き、眉を吊り上げた。せっかく整えた前髪が目尻に掛かっている。

「そんなっ……だって、静馬に恥はかかせられないよ。これからもお付き合いする大切なご家庭だろ？　失礼があってはいけない」

　あぁ、緊張する緊張する、と自分を苦しめるように呟く父は、ふらりとまた寝室へ戻る。