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 そんな父を俺はリビングのソファで待つ。いや、昼に焦がしたフライパンをもう一度頑張って磨こうか。食洗機に掛けた食器も棚にしまわないと。うっかりしてると父が何でもやろうとするからさ。  家事は分担しているが、早く慣れたいあまり率先していた。で、失敗ばかりかますのだが、それすら父には嬉しいようで、何をやっても笑っている。全く怒らない。俺がただテレビを見ているだけでも、「うぅ」といきなり涙ぐむ始末。  俺の元へ駆け付けてくれた時の父は、実に頼りがいのある男だったが、その印象が変わってゆく。この人は繊細で傷つきやすく、脆い部分をも抱えている。  それは先日、不倫相手の話を聞かせてもらったせいかもしれない。    結局、父は会社へ行くようなビジネススーツに身を固め、手土産のケーキを片手に家を出た。道中はぶつぶつと挨拶の練習をしていた。そんな父の横顔を盗み見て、あらゆる五感からこの人が俺の父親なんだ、と確認し、納得した。 「父さん、泣いちゃ駄目だよ?」  ふと心配になって冗談ぽく注意すると、「わ、分かってるよ」と慌てたように言った。  ◆  須田家の扉はすんなりと開き、快く迎えられた。  一番最初に出迎えた灯は、俺の父を初めて目にするわけだが、見事に絶句した。 「こんばんわ。今夜は招いてくれてありがとうね。静馬の父です」     
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