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「えっ」と戸惑う灯に手を差し出す。人の通りはまばらで、車もたまに過ぎるくらい。それでもうじうじする灯の手を掴み、引っ張った。 「二人のこと、灯にも話したい。聞いてくれる?」 「う、うん。もちろん」  教師と生徒、という立場の時に二人は出会った。  当時、父は高校三年生だった。産休の代わりに入って来た昴さんとは半年程度の付き合い。交際、という意味ではない。単に教師でいた期間のこと。  父が恋に堕ちたと自覚したのは三か月目。相手は男で一回りも年上だ。でも、年相応らしさがなく、生徒にからかわれるのを数度にわたって助けるうちに、誤魔化せなくなったという。  一度目の告白は、学校を離れる時だった。 ――気の迷いだよ。忘れた方がいいから。  笑われたうえに、冗談だと受け止められた。連絡先すら教えてくれない。  それでも父の心はずっと、昴さんに捕らわれ続けた。  二度目の告白は、父が大学を卒業し、めでたく社会人となった一年目。ようやく仕事にも慣れてきた頃、同僚の見舞いに行った病院で、車椅子に乗った昴さんと再会した。  忘れてはいなかった。忘れようとしていただけで。  頭の中でイメージしていた姿と、現実の昴さんにギャップがありすぎて、父は大層狼狽えた。と同時に、高校三年の頃の熱い想いが込み上げ、父は足しげく見舞いに通った。     
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