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新聞記事でも読み上げる如く、誰かが昴さんを話題にした。病院で見かけた。当時の面影はなく、骨と皮だけで気味が悪かった。死ぬのも時間の問題だろう、と。
その誰かに殴り掛かった父は、完全に八つ当たりをしてしまった、と俺に恥ずかしそうに話した。
酒の飲み過ぎだと周囲に呆れられ、母に迎えを頼んだ。ひょっとするとその時から、母は何かしら気付いていたかも知れない。
あれほど忘れようとしたのに。
父はとうとう会いに行ってしまった。
ほとんどもう、死んだように眠る昴さんを見て、涙がとめどなく溢れた。
「失礼な奴だ」と儚げに笑う昴さんに、父は三度目の告白をしてしまう。
まるで、神様にでも祈るように。
――貴方が好きです。どうしようもなく。どうか、忘れないで下さい。
返事など期待していない。
ただ、貴方を想っているしつこい男がいたと、覚えていて欲しかった。たとえあちらへ逝ってしまっても、忘れないでと。
なのに、ここに至って昴さんは初めて「ありがとう」と言った。
「嬉しい」とも。
――君を、忘れたことなんかない。一日だってない。本当、なんだ。
そして、三度に渡って告白した父の想いに、昴さんは甘え、命を懸けたお願いをした。
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