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 母は以前から、父に対して少なからず違和感を感じていたようで、言葉にされてようやく合点がいったらしかった。  結局母は、俺を盾にして最後まで認めなかった。家を出て行けば二度と静馬に会わせない、と言い放ったそうだ。  それでも父は、どうしても、どうしたって昴さんの傍に行きたくて、頼み続けた。  最後には仕方なく離婚届に署名するが、「これを出すかどうかはすみれちゃん次第だよ」と言い、「必ず帰って来るから。どうか待っていて欲しい」と頭を下げて、家を出て行った。   「人を好きになるってすごいよなぁ」  泣きじゃくる灯の顔に、ハンカチを押し当ててる。 「え?」    真っ赤に腫れた鼻を見て、頬が緩んだ。  ぽかんとする灯にハンカチを渡して、「涙拭けよ」と肩を竦めた。  ほら、と手を引き、父から聞いた通り進み、昴さんのお墓を探し当てた。水差しの花はまだ生き生きしていたので、持参した仏花をちょっとだけ無理矢理足した。 「灯はすごいなってことだ」 「……は?」 「ほら、手を合わせるぞ」 「えっ、え?」  あたふたする灯は、「お、俺初対面だけどなんて言えば?」と間抜けな疑問を口にする。 「俺も初対面だって」   「あ、そっか」と頷くと、灯は俺に倣って合掌する。ええと、うんと、と心の声が漏れているのが可愛い。律儀に自己紹介から始めてる。     
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