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 家族を捨てた事実はそのまま自分の存在を否定されたようで、正直……かなり打ちのめされた。と同時に、父を憎む資格がないことを知った。ただ純粋に恨めたら良かったのに。そしたら、母の傷みに寄り添うことができた。   「はぁ」  ため息と共にスマホを手に、ベッドへ倒れた。照明を隠すようスマホを掲げ、もうすっかりそらんじた携帯番号をタップしていく。  高校に上がる頃、絶縁状態の父方の祖母から連絡が来た。死ぬ前に、一目だけ俺に会いたいと言ってきた。渋々了承した母は、俺一人で見舞いに行かせた。正直、祖母の死を悲しめる心もなく、かなり後ろめたかった。正確にいうと、感情をどう持てばいいのか分からなかった。  顔見知りのおばさんが救急車で運ばれた時のが、よっぽど心配できそうだ。  そんな血も涙もない俺が顔を出していいのか。  しかし、「息子がひどいことをしてごめんね」と息も絶え絶えに謝られ、思わず「こちらこそ」と言いたくなった。俺は大いに戸惑いながら、しわくちゃな手と握手をして別れた。そして、父の妹である叔母が追いかけてきて、殴り書きしたメモ紙を渡してきた。そこには、父の携帯番号が記されていた。「一度だけでも良いから」と、叔母に頭を下げられた。  未だに登録もしていなければ、掛けたこともない。ただ、この番号を眺めては幾通りもの父親像を浮かべている。     
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