3/7

386人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
 心配して損したような、ここまで来て恥ずかしいような、何とも微妙な心地になり、去ろうと踵を返しかけた時、須田に近づく男子に目が吸い寄せられた。肩を揺すり、須田の顔を上げさせる。たいそう不細工な面を寄せて何やら耳打ちした。途端、須田は頬を紅潮させ、手で追い払う仕草をみせた。その華奢な手を掴み、無理に立たせようとしたので。 「(あかり)」  室内でざわっと波が立ってから、しんと静まる。女子の黄色い声が上がったのはその後。 「あ、せーま……? どうしたの」  この時なぜ、咄嗟に「須田」ではなく「灯」と呼んだのか。それは多分、未だに須田の手を掴んだままの男に示したかったから。お前が触るな、と。  氷と称される目をひたと男に向け、無言の圧力をのせた。そしてすぐに、妙な引っ掛かりを覚えた。そうだ。この汚い面には見覚えがある。さっと視線を奔らせると、明らかに顔を逸らす不細工が他にも二人いた。  すっ、と体温が下がった。それこそ全身氷のように冷えた。なのに、胸の奥だけはむちゃくちゃ熱い。 「具合、悪そうだな」  俺が近付くと、クソ野郎は慌てて須田の手を離し、何食わぬ顔で逃げた。 「あ、うん。雨の日って身体だるくてさぁ」  へへ、と汗ばんだ額を拭う須田。肌の血色も悪いし、肩も細かく震えていた。  馬鹿だコイツ。 「保健室行くか、早退しろよ」 「えー、大袈裟」と無理矢理笑おうとする須田を、今すぐ連れ出して怒鳴りつけてやりたい。  「せーまと弁当食べる約束だし」  机にかかったトートバッグを指してそんなことを言うので、乱暴に取り上げた。     
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

386人が本棚に入れています
本棚に追加