プロローグ

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 犯行を隠すため、もちろんカーテンが閉まっている。雨のせいでただでさえ薄暗く、室内はほとんど闇に近い。所が俺が無造作に扉を開けたことで、直線上にいた奴らの狼藉は文字通り明るみとなったのだ。  玩具にされかけた憐れな男は、尋常ではない震え方をし、懸命に喉を鳴らしていた。涙がぼろぼろと音を立て、外の雨よりも余程勢いがよかった。    おいおい、勘弁してくれ。    男に襲われる男、という異様な事態はしかし、被害者が彼である以上、意外でも何でもなかった。  校内の、特に女子に俺、宮内静馬(みやうちしずま)の名を知らない生徒がいないように、ソイツも違った意味で有名だった。  去年の文化祭、大正浪漫喫茶なる出し物があり、そこで袴姿の女装を披露してから、あまりの可愛らしさに男に言い寄られる男として知名度が上がった。あいにく、俺はその姿を拝んでいない。  須田灯(すだあかり)。  男のくせに「あかり」などと女っぽい名は、そのまま容姿に直結したらしい。名は体を表すってやつ。親に文句をつけるべきだ。     
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