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 まさか服装のチェックをされるとは思わなかった。選んだのはダンガリーシャツにベージュのチノパンというごくごくシンプルなもの。 「うん、さりげなくていいわ。上手くやりなさよ」  すれ違いばかりの日々だが、こんな風に穏やかな母を見るのは久しぶりだった。まるで、夢の中で見かける姿のようで。 「今度は本気なのね、静馬。母さん、もう心配しなくていいわよね」   玄関を出かけた所で、そんなことを言われて足に根が生えた。恐る恐る振り返ると、変わらぬ笑顔で母は立っている。 「信じて良いわよね? あの人の息子でも静馬は違うって。男の人を好きにならないって」  心臓を人質にとられた気分だった。ほんの刹那、呼吸の仕方を忘れたがなんとか現実を取り戻す。踵を返し、母に微笑みかけた。 「どうしたの突然。俺、不安にさせるようなことした?」  玄関の上部に取り付けられた防犯カメラが気になった。もう家には誰も招かないし、疑われるような事はしていない。     
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