6

3/9

386人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「母さんね、もう静馬を疑うの止めようと思うの。だって、静馬が色んな女の子と付き合うのは母さんを安心させるためだったんでしょ? それが夏休み前から様子がおかしいなと思って、つい最近ね、スマホを見させてもらったの。そしたら母さんの他に一人だけ登録してる子見つけたから。ようやく、本気で好きな子に出会えたんだなってホッとしたのよ」  氷を飲まされたかと思った。するすると喉の奥を滑り、胃の腑にボトンと落ちる。 「さ、早く行かないとあかりちゃんに失礼よ」  頬が強張るのを隠せなかった。  ◆◇◆◇◆ 「あらあら、家の時計壊れているのかしら。一時間も進んでいるわ」  自ら土下座をしたいと思ったのは生まれて初めての経験だった。がしかし、インターホン越しでは伝わるまい。 「そういう嫌み言うなって! 仕方ないだろっ! 早く鍵あ、け、て」  鍵をもって出れば良かったと地団駄を踏む灯を、俺はぼんやり眺めた。私服姿だと、より男っぽさが薄れ、性別の壁が曖昧になっていた。もちろんスカートなど穿いていない。ただ、デニムの裾を折り曲げているので細い足首が露わになって大変危うい。そんな生っしろい肌は直ちに隠すべきだ。白のロゴシャツは丸襟で鎖骨のラインが強調され、より華奢に見える。グレーのパーカーを羽織っているが、サイズが大きくて防御力に欠けた。だって動くたびに肩がずれるのだ。それを直す様がまた何とも……かわい、い。 「ごめんな、せーま。蒼姉って口悪いけど、本当は優しいから」 「いや、怒って当然だろ。一時間も遅れた俺が悪いんだ」     
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

386人が本棚に入れています
本棚に追加