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 そして、なんというかその、もの凄い睨まれているのはなぜか。もうずっと昔から目障りだったの、と言わんばかりの敵意を感じた。いや、遅刻をした俺に落ち度はある。ただ、それだけでここまであからさまな態度をとられてしまうのか、という問題。まるで、大事な一人娘を嫁に下さいと挨拶に来た婚約者の気分だ。 「須田家の長女、蒼です。よーこそ。今のはわざとじゃないから許してねー」  すごい棒読みだった。  いえいえ、と俺は再度頭を下げ、「遅れて申し訳ございませんでした」と謝った。尽かさず灯が、「そんなに謝らなくていいって!」とかばう。しかし、余計に蒼さんの神経を逆なでする結果になりはしないかと焦り、灯の気遣いにハラハラさせられた。    ◆  ようやく敷居をまたがせてもらい、リビングに案内された。  L字型のソファの前にガラス製の丸いテーブルがあって、ピンクのガーベラが一輪だけ花瓶に差さっていた。壁には液晶テレビが掛かり、リビングの広さや行き届いた掃除に感嘆する、ということの前に、気になることがある。壁にかかっている時計、額縁の中の絵、戸棚の中の置物、ソファのクッション。そのどれも、妖精をモチーフにしたものではないか。西洋の絵本にでものっていそうな、あの妖精。しかも、今俺の隣に座っている灯の顔にやや似ているような。 「蒼姉ってば三十過ぎてもメルヘン趣味が抜けないんだ」  灯の解釈が正しいのかは疑問だが、あえて突っ込まない。     
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