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色素の薄いキャラメル色の瞳は、リスとかハムスターとか、その類の愛玩動物を思わせる胡桃の形をしている。鼻も唇も小さく、背だって低い。陽射しに当たれば髪はクッキーのように香ばしい色味だ。いつも無邪気な笑顔を浮かべているのに、今は恐怖のあまり引きつっていた。はだかれた肌は砂糖のように白く、不覚にも目が吸い寄せられてしまった。
くそ、最悪だ。壁に額をぶつけたい。そして目の前の光景を消滅したい。
ここで目があったのは一生の不覚で、最大の落ち度だった。
俺と目があった刹那、須田灯は青ざめた肌を紅潮させ、顔を伏せた。大粒の涙をぽたぽたと落として。
息ができなくなった。
「気持ち悪い」
そんな一言が口をつき、踏み出す一歩がやたらと重かった。誰もいない廊下へ出てから、宙に向かって声を飛ばした。
「せんせー、いじめ発見しました」
泡を食った三人は競うように飛び出し、廊下を駆け抜けていった。俺もさっさと教室へ帰ればいいのに、どうしてかその場に止まった。
静まり返った廊下で、雨音に混じってすすり泣く声をいつまでも聞いた。
さらさらさら。
しくしくしく。
その後、騒ぎになるべき事件は誰の口にものぼらなかった。何事もなかったように楽しい長期休暇へ突入したのだ。
俺、以外が。
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