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 灯は部屋に入るなりベッドへ飛び込んだ。抱き枕と思われる羊のぬいぐるみを絞め殺し、俯せになって足をバタつかせた。  拗ね方が可愛い……、などと決して漏らせない感想を抱きつつ、静観する。  ええと、なんというかすごいお姉さん達だった。灯を溺愛しているのはよく分かったし、同時に灯がどんな目に遭ってきたかも窺い知れた。  灯のことだ。毎日俺のことを話題にしては、友達が出来そうなんだ、と嬉しそうに喋っていたに違いない。そして過去の経験から、危険か否かを見定める必要があると姉達は考えた。そんなとこだろう。  世界の童話や日本の歴史の本が整然と並ぶ本棚を眺め、これを灯に読み聞かせたのは蒼さんだろうか、とか。勉強机の真上にあるコルクボードの写真は、陸さんの作品だろうか。など、部屋の様子を眺めては灯のこれまでに想いを馳せた。 「小学三年の時さ。夏休みに家族でキャンプに行ったんだ」  俺はクマの帽子を被った灯の写真に見惚れていた。小さな手をいっぱいに開き、おにぎりにかぶりついている。家族で動物園にでも行った時のものか。と、ほわほわしていたら唐突に灯が喋ったので、一瞬時系列があやふやになり、混乱した。     
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