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「それなのに、姉ちゃん達は俺を責めないんだ。むしろ自分たちのせいだって言って、ずっと俺に負い目があって。本当は逆なのに。父さん達の分まで俺を守らなきゃって過剰なくらい心配してるんだ。なのに、俺、いっつも変なことになって」  心配ばっかさせていると悔しがった。  そんな悄然とした灯に、俺は手を伸ばせずにいた。ほんの少し、腰を浮かせば指が届く距離なのに。どうして手が伸ばせないのか。ここまで来てまだ一歩が踏み出せない? 本当はそのつもりで来たのに。  母の目を誤魔化しても、灯の心を手に入れたい。 「俺が……いけないのかな」  またも不意に、心を揺さぶられた。  灯の声に切ない響きを見つけてしまう。  すーっと昂ぶった熱が冷め、心がひどく静かになった。 「どうして?」  怒ったように「だって!」と叫ぶと、灯は両手で顔を覆った。 「俺が勘違いさせるからいけないって、俺のせいだって言われた」 「誰に?」 「友達だと、思ってた奴」  そうかもね、と心の中で応じた。  一時間も遅刻をしたのはやっぱり、止めようかと迷ったからだった。決意をしたつもりなのに、母とのやりとりで足が竦んでしまった。また、あの時みたいに母を傷つけてしまうと考えたら前に進めなかった。  それでも今を選んだのは、灯の顔がちらついてどうしようもなかったから。電話越しの声が耳の奥でこびりついている。教室の真ん中で悪夢が去るのを堪える姿が、忘れられない。     
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