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 陽は沈みかけ、あちこちの外灯が点き始めた。帰って行く生徒もまばらにいる中で、校門の前で小さな影が蹲っているのを見つけた。それが灯だとすぐに分かった。声を掛けようかと逡巡しながら、結局通り過ぎた。でも十歩も数えない内に足を止める。同じ動きをする女子に「ごめん、先行ってて」と頼んだ。当然不思議がられるが、「ごめん」と繰り返せばそれ以上粘られなかった。 「おい、どうしてこんな所に一人でいるんだ」  灯の傍まで引き返して訊ねると、薄闇でも分るほど白い顔を見せた。何度か瞬きを繰り返した後、俺だと認識できたのか。たちどころに視線が泳ぎだした。 「あ……ひさし、ぶり、のような。ええと、あの、ごめん」  いきなり謝られてしまった。あの日以来の会話が謝罪だとすれば、失恋は決定的なものだと思えた。自分を慰める言葉を思い浮かべ、冷静になる。少し距離をとって並んだのは、俺なりの配慮だ。 「も、もうすぐ、蒼姉が迎えに来るんだ」  マジか。出来れば会いたくないので今すぐ教室に戻ろうと思い直した時、「せーま」と灯が呼んだ。灯だけが呼ぶ俺の名前。久しぶりに呼ばれた、とこれだけで胸の奥が温かくなった。 「お、俺……ちゃんと、考えてるから。その、だからもう少し……」  何のことか分からず聞き返そうとしたら、目の前で風を切るようにして車が停まった。 「灯! お待たせ! 遅くなってごめんなさいね、ぶっ飛ばして来たんだけど混んでて」    げ、来た!  声量のある蒼さんの声と、エンジン音で灯の声は完全にかき消された。ついでに言うとライトが滅茶苦茶眩しい。     
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