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 悩ましげに声を抑える灯の目から、さらさらと涙が零れる。口を覆っていた手はそのうちずれて、自分の指をぎしぎしと噛み始めていた。涙と唾液で汚れていく灯と、ひと時だけ目が合った。と同時に、灯を可愛がっていた手に生温かさがじんわり広がった。  達した余韻に引きずられる灯の表情から目が離せずにいると、また視線が絡む。ぼうっとした灯は瞬きをして涙を散らす。ほのかに色づいた目元。濡れた唇から零れた指には、くっきりとした歯型が浮かんでいた。その手を労わってやりたい。がその前に、灯の乱れた服を手早く整えてやった。そうしてるうちに灯も現実を思い出したのか、必死に話題を逸らそうとした。 「あっ、そ、そう。そうだ、せーま、あの、今夜家来れる? 蒼姉がさ、せーまに話があるって」 「……え。何の用だろうな」  蒼さんの名を聞いて、ギクリと心臓が跳ねた。  ノートに書き殴られたあの、約束事についてだったらどうしよう。早速破り散らしている手前罪人のような心地になった。会えばキスなんて数えきれないほどしたくなるし、触りたくなる。ただ、避妊具必須のエッチはまだ食い止めているから大丈夫。のはず。  汚れたハンカチを丁寧にたたみ、予備のハンカチに包むようにしてポケットへ突っ込みながら自分に落ち着け落ち着けと言い聞かせた。 「文化祭終わったらさ、デートしようって言ってたじゃん? それ、遊園地でもいい? 陸姉の提案なんだけどね。その相談がしたいみたい」     
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