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紹介したい人がいるの、と突然言われたのは実は、今朝のこと。多分、少し前から予定されていたんだろう。なのに告げるタイミングを逸し続けて当日。しかも俺が靴を履いて「行ってきます」と出掛ける間際になった。寄り道せず家に帰ることを約束し、学校に向かいながら、頭の中で様々な点と点を繋げた。
母も、ようやく過去に解放される時が来たのだと心が軽くなった。
「そ、そうなんだ。なんか、ドキドキするな? しっかりな?」
「あぁ」
安心したのか、灯の頬が緩み、ほのかに赤らんだ。瞳はまだ仲良くした余韻が残って潤んでいる。愛らしいんだけど、色っぽい。そんな気配を漂わせて教室に行っても大丈夫なのか、と不安に思い、わりと真面目に提案した。
「灯さ、保健室で休めば?」
「なんで?」と目を丸める灯に、「えろい顔してる」とありのまま指摘した。すると即座にまた分かりやすく顔が腫れて、唇がむむっと尖りだす。
「そ、そんな風に見えるのせーましかいないし!」
と、叫び。
「せーまのがえろいしっ!」
と、言い返されて。
「馬鹿っ!」
あと「変態」と「えっち」を交互に口にしながら、俺に背を向けないようカニ歩きをして視聴覚室から出て行った。
予鈴が鳴るのを心静かに聞いてから、俺も廊下へ出る。
灯って……、本当に馬鹿だな。
そして、史上最強に可愛い奴だとしみじみ思った。
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