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 俺と母にとって、記念すべきめでたい日だ。天気は関係ないと言っても、陽が暮れるほどに空模様が怪しくなると少し残念だった。雲は分厚くどす黒い。まもなく、土砂降りといって差し支えない勢いになった。そんな中、約束の場所まで母と共にタクシーで移動した。  灯は大丈夫だろうか。  蒼さんが毎日送迎しているので問題ないだろうが、こんな日は心配になる。灯の心が小学三年生の夏に戻らないか。怖い思いをしてないだろうか、と。  一言くらいメールを飛ばそうかと考えたが、俺の様子を母がこう察した。「緊張しなくても大丈夫よ。とても優しい人だから」と。  着飾った母にそう言われると、滅多な動きは出来なくなった。スマホを掴もうとした手を引っ込め、唇に笑みをのせた。 「そうはいっても、お父さんになるかもしれない人だよね? やっぱり緊張はするよ」  あぁそうだ。  今日は、今夜は母にだけ心を傾けよう。それくらいしないと罰が当たる。   「母さん、今夜は張り切ったね。とっても……綺麗だよ」  照れくさいが素直にそう褒めると、母は目を丸め、それから恥ずかしそうに笑った。まるで少女のように。     
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