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 化粧をするようになって、昔の自分を思い出したのか。母がどんどん若返って行くような気がする。眉の形から頬紅の入れ方、目元を彩るささやかな光。丁寧にひいた口紅は魅惑的な色と艶がのっていた。髪は昼間に美容院にでも行ってきたのか、ちょっとの風ではびくともしないほどしっかり後頭部でまとまっている。  全ては今日の為だと言わんばかりに母の気合いが伝わってくる。俺の為に買い揃えたグレーのジャケットとスラックスパンツ。そして母は、かつて見たこともないIラインのワンピースドレスを着ていた。身体のラインを露わにするそれは、母がまだまだ若く美しいことと、女性であることを俺に気付かせた。  母の時間は確実に、前へ前へと動き出している。  ◆  母の格好からして、そこそこ堅苦しいレストランに入るのだろうと思っていたが、やっぱりそう。外観だけなら遠目で何度か目にしたことのあるホテルで、その一階にあるフランス料理店。何かの間違えで落ちてきたら即死だろう、と思えるシャンデリアが天井にずらりと吊り下げられている。それだけでもう落ち着かない。  しかし、滞りなく自己紹介を済ませ、コース料理が時間を空けて運ばれてくるように、ゆっくりと会話は進んだ。 「静馬君はモテるだろうね。すごく男前だ」  いえいえそんなと俺が謙遜するより早く、母が「そんなことありません」とぴしゃりと否定する。しかも「心配ばっかりさせられて」と付け足され、俺の口はもごもご止まる。       
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