14

6/13
前へ
/148ページ
次へ
 ◆ 「どうしたんだい静馬君? 顔色が悪いよ」 「静馬、お行儀が悪いわ」  そう長くもない距離なのに、俺は肩で息をしていた。冷や汗が脇に背中に流れるのが止められない。 「ご、ごめんなさいすみません、俺、そのっ……灯がっ!」  伝えたいことは決まっているのに、言葉が上手く出なかった。灯の名を呼ぶことで、今初めて母の視線を感じたほどだ。 「本当にどうしたんだい?」    おろおろする遠野さんに勢いよく頭を下げた。 「すみません。実は、友達が救急車で運ばれたと連絡が入っていたんです。だから」 「そ、それは大変だっ! 大丈夫だよ落ち着いて、よし、そうだ。すぐにタクシーを呼ぼう」  いえ、と俺が言うより早く、遠野さんは顔見知りなのか、給仕のスタッフに目配せした。さらに「一人で平気かい?」と気遣われ、困惑しながらも頷いて見せた。最後にもう一度謝って、お礼も告げる。が、これだけはと思い出した。 「母のこと、どうかよろしくお願いします。俺は、二人のこと賛成ですから」  でも、卑怯なことに母の顔を見られずにこの場を後にした。いつまでも母の視線が背中に突き刺さっているようだった。     
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

386人が本棚に入れています
本棚に追加